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2019.12.03 UPDATE【Interview】松永誠剛さんに訊く、古民家SHIKIORIの10年間。

福岡県宮若市の田園地帯に佇む、築130年を超える古民家音楽ホール「SHIKIORI。市街地とは遠く離れた立地ながら、これまでに15カ国40人以上のジャズミュージシャン達が世界中から集い、音を奏でてきました。主宰の松永誠剛さんは、この場所を拠点にコントラバス奏者として世界各地で演奏を行うほか、今年はオダギリジョー初監督作品『ある船頭の話』でアルメニアのジャズミュージシャン、ティグラン・ハマシアンとともにサウンドトラック制作に参画し、近年ますます注目を集めています。

 

SHIKIORI立ち上げの経緯や活動への想いを伺った前回のインタビューから5年。世界的な活躍を続ける音楽家がローカルに拠点を置き、活動してきたこの10年間で何を感じたのか。これから先に何を見据えているのか。ツアー直前のタイミングで、話をうかがいました。


>>SHIKIORI 10周年 記念「A Portrait of Home Japan Tour 2019」情報はコチラ

松永誠剛(まつなが・せいごう)

1984年、福岡県宮若市生まれ。コントラバス奏者。宜野座村国際音楽祭アーティスティック・ディレクター。 Homenaje Project代表 。17歳の夏をボストンの音楽院にて過ごし、その後、NYでマシュー・ギャリソン、コペンハーゲンでニールス・ペデルセンのもとで音楽を学ぶ。これまで南アフリカからインドまで世界各国で演奏を行い、エンリコ・ラヴァ、カイル・シェパード、ビアンカ・ジスモンチ、ビリー・マーティン、ティグラン・ハマシアンなどと共演、活動を行っている。現在は福岡の“古民家 SHIKIORI”を拠点に、ここでレコーディングした作品をリリースしている。

音楽ホールから、コミュニティへの還元へ。

 

ーこの10年間を振り返って、SHIKIORIは立ち上げた当初から変化しているところはありますか?

 松永:SHIKIORIをはじめた10年前はビルボード福岡(旧ブルーノート福岡)が閉店した時期でもあったので、最初の数年間は音楽ホールとしての可能性も模索していた時期もありました。これまで年に数回、コンサートも開催してきましたが、ここ5年間はこの空間というよりも、コミュニティへ還元をしていきたいという想いが強くなっています。

 

松永:東京や海外から帰ってくるたびに、この家へ戻ってきてよかったといつも思うんです。その最たる瞬間が、夜眠るときに蛙や季節ごとの虫の声が聴こえてくるとき。それらの音は自分にとっていちばん心が安らぐ音楽、好きな音楽のひとつで、この環境は田んぼや畑が残っているからこそ。農作業を営む人がいるからこそ続いているものです。

松永:どの地域も同じですが、畑仕事をしている近所のおじいちゃんおばあちゃんも、高齢化が進んでいます。僕がいいと思う音楽が残る環境を維持することは個人的な願望に過ぎないかもしれませんが、以前は「この空間をいかに残すか」だったのが「集落としての、全体の環境をどうしたら残せるのか」を考えるようになりました。

SHIKIORIレーベルで、リリースしたお米。 SHIKIORI Facebook


松永:その一環として、ささやかな動きではありますが、今年はSHIKIORIから『ある船頭の話』のサウンドトラックと同時に、この地域で収穫されたお米もリリースしました。SHIKIORI Recordingsでは過去にカイル・シェパードの「Into Darkness」をこの空間で録音したこともあって、そのような作品とお米が並ぶのは、ここで録れた(獲れた)のが、音なのか、お米なのかの違いだけで、自然な流れです。

市町村合併でここは地名が宮若になりましたが、もともと地名が「宮田」だったのは、宮に収めるためのお米をつくってる場所だったことからきています。宮というのは、宗像大社のこと。そういった土地のゆかりに沿った環境を守ることができたらなと思っています。

 

SHIKIORIがもたらした、現代最高のベーシストとの出会い。

 

ーご自身の音や演奏への姿勢は、ここで暮らしているなかで、変化した部分はありますか?

 松永:ここ3年間で明確に音が変わったなと感じる出来事が2つあります。ひとつはベーシストのアンダーシュ・ヤーミーンとの出会い。僕が現役で最も憧れていたミュージシャンのひとりで、彼がSHIKIORIでライブを行ったのがきっかけで、交流がはじまりました。ヤーミーンはここで演奏をしただけでなく1泊して、翌朝畳の間でレッスンをしてくれたんです。その後も、彼の拠点であるスウェーデンのイェーテボリへ行き、継続的にレッスンを受けることができました。この一連の流れは、SHIKIORIがあったからこそです。明らかに、音が変わったと思います。

 

Homenaje Project WEBサイトより


松永:もうひとつは、屋久島での経験。主宰した「Homenaje Project」の一貫で、森のなかでコントラバスを弾いていたんです。たくさんの登山客の方々が珍しがって写真を撮っていて、複雑な気持ちになっていたのですが、ふと川の対岸をみると、鹿が演奏を聴いてたんです。ただそこにいるだけじゃなくて、聴いている感覚があって。

Homenaje Project WEBサイトより

松永:これはどういうことなんだろうって、その後動物に詳しい友人に聞くと、鹿のメスは低い音を求めて、縄張りを離れる習性があると。だから「低い音を弾けばそりゃあ寄ってくるよ」とのことでした。音域の性質上聞き入っていただけではあったのですが「音は、人間だけのものではない」ことを実感できたのは、僕のなかでは音楽の概念を変える、大きな出来事でした。都市部に暮らして、忙しく過ごしていたら、できなかった体験だと思います。

人はそれぞれ、違う軌道を生きている。

ーお話を聞いていると、前回のインタビューで「地方にいても、自分が求め続けていれば、必要な出会いは得られる」とおっしゃっていたことが、まさに具体化したような印象があります。

 松永:どこで暮らしていても、人生のなかで、コミュニケーションをしっかりととれる人数、深まっていく関係はそこまで多くないと思うんです。田川にゆかりのある、ジャズピアニストの山下洋輔さんも先日「長生きの秘訣はね、嫌な人間に会わないことだよ」と冗談半分で仰っていましたが、SHIKIORIを拠点にしていることで、人間関係も自ずと深まっていく関係だけに絞られている感覚があります。

松永:最近人とのつながりで感じるのは、人それぞれ、生きている軌道が違うんだなと。同じ世界を生きているようで、みんなそれぞれ違う乗り物に乗って、別の線路を走っているような。そのサイクルのなかで、たまたま動いてる流れが似ている人がいて、同じ軌道を走ることもあれば、それが数年おきに切り替わっていくような実感があります。

1日4時間を、一生続けていく。

ーこれから先のビジョンについて、教えてください。

 松永:19-20世紀に活躍したパブロ・カザルスは、バッハの無伴奏チェロ組曲を独奏したこことで、それまで主に伴奏用の楽器だったチェロの在り方そのものを変えました。僕はコントラバスでバッハの無伴奏組曲を全曲レコーディングするのが目標で、カザルスのように楽器そのものを発展させていくことを目指しています。

松永:カザルス自身のことも個人的に研究しているのですが、『回想のカザルス(著:井上頼豊)』という本のなかで、彼は生涯「1日4時間」の練習を続けていたとありました。ひたすら、毎朝4時間を一生です。僕も、そういう人生を過ごしたいと思っています。

音楽家の目標というと、グラミーのような賞を獲ることなのか、毎晩有名な場所で演奏したり、多くの人の耳に届くことなのか。何を目指すかは人それぞれです。

松永:いま、有り難いことに東京や海外でもいろんなところで演奏させてもらって、ここへ帰ってきて、を繰り返して。都市と田舎のコントラストの強い生活を続けていくなかで、僕にとっての音楽は「朝起きて、コーヒーを飲んで、コントラバスに触れていたら、それでいい」ということに思い至りました。無伴奏組曲は、完璧に弾けるようになるには少なくとも15年ぐらいかかるんです。逆算していくと、全然時間が足りなくて。



ーSHIKIORIでの10周年記念ライブも含めて、今回のツアーはどのようなものになりそうでしょうか?

 松永:今回は、10周年の節目でもありますが、個人的には1週間まとめて各地を巡るようなツアーは最後になるかもしれません。ここ数年で、ライブの姿勢自体も変わっていていて、これまでは真面目に「演奏をしっかり聴いてください」感があったのですが、SHIKIORIや各地での活動を通じて、何よりもお客さんと共感し合う、共鳴することがライブであり、お互いに身構えない場づくりを心がけるようになりました。

松永:今から演奏しますよ!というのではなく「90分ノンストップの即興演奏とありますが、70分ぐらいで終わったらすみません、それでは次の曲で最後になります」なんて言いながら演奏をはじめたり(笑)。日常的に音楽があること、それこそ日常が芸術的であるということが豊かだし、さらに言えば、音楽も日常から自然に生まれるほうがいい。共演するカイル・シェパードやクロード・カズンスとどんな音、空間が生み出せるか、自分自身も楽しみにしています。

SHIKIORI 10周年記念:A Portrait of Home Japan Tour 2019

Kyle Shepherd/Claude Cozens/Seigo Matsunaga

[会場] 古民家SHIKIORI                            

[日時] 2019年12月5日(木)

[開場]18:30 [開演]19:00 

[料金] 7000円 (60席限定)

[出演] カイル・シェパード(pf)/クロード・カズンス(Dr)/松永誠剛(Contrabass) 

[お問い合わせ先] SHIKIORI:info@shikiori.net

 

A Portrait of Home Japan Tour 2019 other concerts[その他の会場]

2019年11月30日(土)めぐろパーシモン大ホール[The Piano Era] http://www.thepianoera.com

 

2019年12月3日(火) 宮古島 [詳細近日発表]

2019年12月4日(水)石垣島すけあくろ[日本最南端のHome of Jazz ]http://scarecrow-ishigaki.com                   

2019年12月7日(土)南砺市福野文化創造センター 円形劇場ヘリオス

http://nantohelios.jp/archives/1526    

 

関連リンク

SHIKIORI
映画『ある船頭の話』
前回のインタビュー

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WRITTEN BY:  CHIKUSKI STAFF
CHIKUSKI WEB運営スタッフです。特集・イベント情報、紙面のリリースに関するお知らせなどを配信。
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