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筑豊でartする #7「『そこ』から何を見るのか TOMOHIRO HANADA」

2024.02.10

筑豊でartする。筑豊には昔から多くのartが存在しています。このコーナーでは、筑豊地域のアーティストが集ったNPO法人アーツトンネルが独自の視点で、筑豊にあるartを紹介していきます。

筑豊でartする #7
「そこ」から何を見るのか
TOMOHIRO HANADA


「Car Reflection」(2018年)

風景が重なる写真

「これ、なんだと思いますか?」そう言って写真家のTOMOHIRO HANADAさん(以下、花田さん)が見せてくれたのは、ドイツ滞在中に制作されたという作品。最初、風景を加工した写真のように見えたのだが、よく見ると、路上駐車された車の写真だった。車体に街路樹や空、建物が反射し、車の色とそれらの風景が混ざり合っている。ベルリンの路上に駐車している車を撮影した「Car Reflection」というその作品は、ベルリンにあるホテルが客室に展示するために購入したのだそうだ。

転々と作品を制作

飯塚市出身の花田さんは福岡市の服飾関係の専門学校を卒業後、イギリスに渡りスタイリストとして活動。その後、写真家になるために渡ったドイツでアーティストとしてのキャリアをスタートした。ベルリンを拠点に作品を制作し、展覧会に出展。いくつかの作品を発表した後、花田さんはドイツから帰国し、別府市のアーティスト・イン・レジデンス(※1)に参加する。世界有数の温泉地であり、観光地である別府市が持つ多様性を受け入れる空気や場所を表現した「別府-Beppu」などの作品を発表した。

2つの視点が重なる作品

ドイツを象徴する「車」と「ベルリンの風景」が重なり合う作品「Car Reflection」は、日本人として外部からドイツを見る視点と、実際にドイツに足を踏み入れて生活した者が持つ視点の両方を持っている。また別府市での作品「別府-Beppu」も同じだ。「車」や「観光地」など外部からの視点は、誰しも持ち得るものである。しかし、その場所に足を踏み入れて生活したからこそ見える日常の風景や町並みを捉えた視点は、そう簡単に手に入るものではない。それは、海外を転々とし、そこに住む国籍や文化が違う人達と交流し生活してきた花田さんだからこそ、得ることができる視点である。

そこから何を見るのか

見知らぬ場所やコミュニティに足を踏み入れることは、勇気のいることだ。しかし、それは刺激的で、新たな価値観を得られるチャンスでもある。花田さんは独特の人懐っこさで、その場所やコミュニティに入っていく。2023年5月には田川郡添田町の空き家を活用した展覧会で、その家に住んでいた人の痕跡と自らの記憶を重ねた「跡-Ato」という作品を発表した。2024年1月10日からは、福岡市にある福岡アジア美術館が主催するアーティスト・イン・レジデンス事業(※2)に参加し、福岡市に滞在しながら作品を制作する。花田さんは、足を踏み入れたそこから何を見るのだろうか。新しい作品が楽しみだ。


「跡-Ato」(2023年)

※1 アーティストが地域に滞在し作品を制作する事業。
※2 制作した作品は「第21回福岡アジア美術館アーティスト・イン・レジデンスの成果展」にて展示予定

【PROFILE】

Tomohiro Hanada
1986年 福岡県飯塚市出身。2016年 ベルリン写真専門学校 Neue Schule für Fotografie Berlin 卒業。生活ルーティンによって引き起こされる思考の停止に疑問を投げかけ、日常生活のなかで見過ごされているものに光を当てることを目的として活動。主な個展に『Today is a better day』(Libris Kobaco、福岡、2020)。主なグループ展に『現実47』(大分県立美術館、2022)など多数。2023年度 福岡アジア美術館アーティスト・イン・レジデンス招聘作家。『Fukuoka Wall Art Project』優秀賞(2023)

【CHECK IT OUT !】

「第21回福岡アジア美術館 アーティスト・イン・レジデンスの成果展」

2023年度の福岡アジア美術館アーティスト・イン・レジデンス事業(第Ⅲ期)には、チュ・メイタオ[曲美陶](ロンドン/深圳)、川辺ナホ(ハンブルク/東京)、Tomohiro Hanada(福岡)が参加しています。本展ではその活動成果を作品として発表します。
日時:2024年2月23日(金・祝)-3月3日(日)
会場:Artist Cafe Fukuoka(福岡市中央区城内2-5)、福岡アジア美術館(福岡市博多区下川端町3-1)※展示の詳細はインスタグラムにて。
主催:福岡アジア美術館
共催:西日本新聞者
※休館日/開場時間は会場によって異なります。詳しくはインスタグラムにてお知らせします。


Tomohiro Hanada 新作予定写真

この記事を書いた人

NPO法人 アーツトンネル

アーツトンネルは、筑豊にアーティストの拠点を作り、新たな文化が生まれ、育っていくような場所を目指したNPO法人です。美術家や写真家、振付家などの肩書きを持つ11人で構成されています。ホームページはこちら

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