筑豊でartする #11「転がる石と彼女の意思 櫻木雅美」
2024.06.10
筑豊でartする。筑豊には昔から多くのartが存在しています。このコーナーでは、筑豊地域のアーティストが集ったNPO法人アーツトンネルが独自の視点で、筑豊にあるartを紹介していきます。
筑豊でartする #11
転がる石と彼女の意思
櫻木雅美

転がる石のような活動
ある時は写真家、またある時は音楽イベンター、そして、ある時は珈琲を焙煎したり、本を製本したり、さらには、その本を出版したり、櫻木雅美さんの活動は多岐に渡る。しかし「職業」や「肩書き」で彼女を説明することはできない。彼女に「あなたはいったい何をしているの?」と聞いたところで、おそらく彼女からは「よくわからない」という言葉が返ってくるだろう。彼女の活動はまるで転がる石のようだ。転がる石に苔はつかない。しかし、そのことは、彼女がある種の地位を得たり、活動の認知が広がったりすることに繋がらないことを意味する気がする。
きっかけはフリーペーパー
一方で櫻木さんは写真家としていくつもの展覧会に作品を出展している。彼女が写真を始めたきっかけは、フリーペーパーの制作だという。20代の頃、福岡市に住んでいた彼女は、自分が好きな写真や言葉を綴ったフリーペーパーを作っていた。彼女はそのフリーペーパーを福岡市内にあるヴィレッジヴァンガード(※)に置いてもらっていたそうだ。そのフリーペーパーにはインスタントカメラで撮影した写真を使っていた。ある日、彼女は大手カメラ屋に向かった。そして、店員さんに「【夜空の星】から【花のめしべ】まで撮影できるカメラをください」と言った。しかし、店員さんからは「そんなカメラはない」と言われたそうだ。
※「遊べる本屋」をキーワードに書籍以外にも幅広い雑貨を扱う複合型書店。
「美しさ」「良さ」をそのまま
櫻木さんが店員さんにしたその質問には「自分が『良い』と思ったところ(範囲)を正確に切り取りたい」という彼女なりの意図があった。写真は、風景や人物を切り取るものだ。しかし、それらの中にはあまりに遠くて写しきれないものや、小さすぎて捉えきれないものがある。彼女は、それらを自分の感じるままに写真で切り取ろうとしたのだ。つまり、彼女の表現には『美しさ』や『良さ』についての明確な基準がある。そして、彼女にはそれらを「そのまま切り取り、そのまま他の人に届けたい」という強い意思があるのだ。
苔がないから美しい
彼女のその意思を意識しながら、彼女の活動を見ていくと、彼女の活動を「職業」や「肩書き」で説明することに全く意味がないことがわかる。彼女が写真で映し出す『美しさ』や、音楽イベントで彼女が声を掛ける音楽家の『良さ』、また、珈琲を美味しく焙煎すること、製本したり出版したりすることには、彼女なりの意思がある。転がる石(意思)に苔はつかない。彼女が感じている『良さ』や『美しさ』に苔は必要ないのだ。彼女は眼の前にある『良さ』や『美しさ』をそのまま切り取り、そのまま他の人に伝えてくれる。転がる石は、ただ、その石そのものが美しいのだ。転がっていく櫻木さんの意思をこれからも楽しみにしている。
【PROFILE】
櫻木雅美
添田町在住。嘉麻市山田のアトリエBismorgenにて創作活動をしている。「森と黒目社」名義で紙や写真に関すること、アーティストとコラボしたり、本を作ったりしている。また「アルヒオンガク」名義で音楽ライブの企画や開催を行う。
作品「ことなしぶ」より
「空」(2020年)
「遣りとり」(2020年)